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広島高等裁判所岡山支部 平成10年(ネ)193号 判決

控訴人(甲乙事件被告) A

控訴人(甲事件被告) B

控訴人(乙事件被告) aシステム有限会社

右代表者代表取締役 A

右3名訴訟代理人弁護士 岡本貴夫

岡本哲

被控訴人(甲乙事件原告) 株式会社富士銀行

右代表者代表取締役 C

右訴訟代理人弁護士 関康雄

平井昭夫

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

主文と同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被控訴人とb株式会社(以下「訴外会社」という)、控訴人A(以下「控訴人A」という)、控訴人会社との従前の関係等について

原判決9頁末行から13頁1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決9頁末行の「25の4」、の次に「55、」を加え、10頁10行目の「自社所有の」を削除する。

二  平成3年2月以降の被控訴人の融資関係について

1  右一の事実、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  訴外会社では、平成2年末ころから資金繰りに窮し、その顧問税理士である控訴人Aや控訴人会社の従業員のDを交えて、資金繰りについての会議を重ねていたが、平成3年2月ころになると、控訴人A及び訴外会社代表者のE(以下「E」という)が被控訴人支店長のF(以下「F」という)に訴外会社への追加融資について打診するようになり、そのため、訴外会社は、右会議で作成された資料を被控訴人に交付するとともに、被控訴人の融資課長のGに資金繰りについての事情説明をしていた。

(二)  前認定のとおり、被控訴人は訴外会社に対し既に約11億円を融資していたほか、訴外会社が建築を発注している顧客に対しても約40億円という多額の融資をしていたことから、訴外会社が倒産すると不利益を受ける立場にあったものの、訴外会社への追加融資は困難であった。そこで、F、控訴人A及びEは、被控訴人が控訴人Aを借主名義人として1億5,000万円(支店長権限により融資できる限度額)を融資し、訴外会社が右融資金をその資金繰りに利用することにした。控訴人Aは、平成3年2月21日、印鑑登録証明書(甲4)の交付を受け、そのころ、被控訴人との手形貸付、証書貸付、当座貸越等に関する銀行取引約定書(甲2。遅延損害金は年14パーセントとの記載がある)及び岡山市〈省略〉所在の宅地についての極度額1億5,000万円の根抵当権設定関係契約証書(甲6)に署名押印し、これらの書類を同土地の権利証とともに被控訴人に提出し(ただし、右根抵当権については、その後設定登記が経由されないままである)、同月22日、右融資金を入金するための被控訴人岡山支店の総合口座(乙23はその通帳)を開設した。また、控訴人Bは、控訴人Aの右債務を連帯保証する旨の書面(甲3)に署名押印して被控訴人に提出した。

そして、同月25日、控訴人Aが額面9,000万円の手形(支払期日同年3月13日)及び額面6,000万円の手形(支払期日同月29日)被控訴人に振り出し、これに基づいて、被控訴人は、融資金合計1億5,000万円から利息等を差し引いて1億4,880万3,251円を右口座に入金し(以下「2月25日の融資」という)、右入金された金員の内金1億4,850万円が直ちに訴外会社の被控訴人岡山支店の口座に振り込まれ、訴外会社の資金繰りに利用された。なお、被控訴人銀行における稟議書である権限内貸出協議書(甲14)には、右融資金の使途について賃貸アパート建築工事代金と記載された。

(三)  同年3月12日ころ、F、控訴人A及びEの間で、右融資金のうち同月13日に期限の到来する9,000万円について、いったん返済するものの再度同額の融資を実行することが確認され、同月13日、9,000万円が訴外会社から控訴人Aの右口座に振り込まれ、同資金により右融資金の内金9,000万円が返済された後、直ちに、被控訴人から控訴人Aの右口座に戻し利息として33万5,343円、借入金として8,962万3,689円が入金され、右入金された金員に右(二)で控訴人Aの口座に残存していた金員の合計9,000万円が訴外会社の右口座に振り込まれた。そして、2月25日の融資金残額の返済期限である同年3月29日、訴外会社から控訴人Aの右口座に1億0,600万円及び4,400万円が振り込まれ、同資金により1億5,000万円が被控訴人に返済された。

(四)  しかし、訴外会社の資金繰りは相変わらず逼迫していたため、F、控訴人A及びEは、再度控訴人Aを借主名義人として被控訴人が1億5,000万円を融資することとし、同年4月1日、控訴人Aが額面1億5,000万円の手形(支払期日同年5月10日)を被控訴人に対し振り出し、これに基づいて、被控訴人は、融資金1億5,000万円から利息(年8.5パーセント)、印紙代等を差し引いて1億4,856万2,730円を控訴人Aの前記口座に借入金として入金(以下「4月1日の融資」という)し、振込手数料を控除した1億4,856万2,030円が訴外会社の三和銀行の口座に振り込まれ、その資金繰りに利用された。なお、右振込みの際作成された振込金受取書(乙27)は、被控訴人の融資担当者のHが記入した。そして、被控訴人銀行における稟議書である権限内貸出協議書(甲15)には、右融資金の使途について自宅新築資金と記載された。その後、控訴人Aは、同年6月12日ころ、右手形の書替手形として再度額面1億5,000万円の手形(甲1。支払期日同年7月31日)を被控訴人に対して振り出した。なお、右融資金の平成3年7月1日までの利息は訴外会社が支払っており、控訴人Aが支払ったことはない。

(五)  訴外会社は、同年4月末ころにも、資金繰りに窮したが、被控訴人において控訴人Aを借主名義人とする融資が支店長権限による融資限度額に達していて困難であったことから、F、控訴人A及びEは、被控訴人が控訴人会社を借主名義人として融資を実行することにした。そこで、控訴人会社は、同月30日ころ、被控訴人との手形貸付、証書貸付、当座貸越等に関する銀行取引約定書(甲10。遅延損害金は年14パーセントとの記載がある)に記名押印し、控訴人Aは、控訴人会社の右債務を連帯保証する旨の書面(甲11)に署名押印した。また、訴外会社は、同日ころ、被控訴人に対し、訴外会社の所有名義であった岡山市〈省略〉及び同市〈省略〉所在の土地、建物(賃貸マンション)について、控訴人会社を債務者とする極度額1億6,500万円の根抵当権を設定し、同年5月1日、右登記手続をした。

そこで、同年4月30日、控訴人会社が額面1億5,000万円の手形(甲9。支払期日同年7月31日)を被控訴人に振り出し、これに基づいて、被控訴人は、融資金1億5,000万円から利息(年8.675パーセント)等を差し引いて1億4,664万0,477円を被控訴人岡山支店の控訴人会社名義の普通預金口座に入金し(以下「4月30日の融資」という)、これに同口座中にあった控訴人会社の預金を加えた合計1億4,675万円が直ちに訴外会社の被控訴人岡山支店の口座に振り込まれ、その資金繰りに利用された。なお、当初、1億5,000万円のうち2,700万円は被控訴人の関連会社であるc株式会社が控訴人Aを借主名義人として融資することにしており、同日、同社が右融資金から利息等を控除した2,607万6,453円を控訴人A名義の前記口座に入金したが、被控訴人が1億5,000万円全額を融資することに変更になり、同日、c株式会社から入金された金員が直ちに同社に返済され、改めて被控訴人から右の1億4,664万0,477円の入金がなされたものである。被控訴人銀行における稟議書である権限内貸出協議書(甲16の1、2)には、右融資金の使途について賃貸マンションの購入と記載された。そこで、その後、被控訴人の求めにより、訴外会社及び控訴人会社は、同日付けで岡山市〈省略〉所在の右土地、建物について代金4億8,300万円の売買契約書(乙8)及び同市〈省略〉所在の右土地、建物について代金2億1,170万円の売買契約書(乙9)に記名押印したが、右売買は真実のものではなく、その旨の所有権移転登記も経由されていない。

2  証人Fは、4月1日の融資は、控訴人Aから自宅建築資金1億5,000万円の融資を申し込まれてこれに応じたものであり、また、同月30日の融資は、控訴人Aから、控訴人会社が訴外会社所有のマンショシ2棟を購入するとしてその購入資金の融資を申し込まれてこれに応じたものであって、訴外会社の資金繰りのための融資ではない旨供述し、被控訴人銀行の稟議書である権限内貸出協議書(〈証拠省略〉)には右供述に沿う内容が記載されている。

しかし、前記認定のとおり、訴外会社は、平成2年末ころから資金繰りに窮し、被控訴人も、平成3年2月ころから、訴外会社の代表者のEとその顧問税理士である控訴人Aからその相談を受けていたこと、被控訴人は、訴外会社に対する追加融資が困難であったことから、控訴人Aを借主名義人として2月25日の融資を行い、右融資金は訴外会社の資金繰りに利用されたこと、4月1日の融資は、2月25日の融資金が返済された直後になされたものであり、これも訴外会社の資金繰りに利用されたこと、被控訴人銀行の稟議書である権限内貸出協議書には融資金の使途について自宅新築資金と記載されているが、控訴人Aの自宅の建築請負契約は平成2年2月に締結され、代金1億5,000万円のうち少なくとも1億円の支払は済んでおり、平成3年4月1日は自宅の完成時期に至っていたこと、4月30日の融資金も訴外会社の資金繰りに利用されており、マンション購入の事実はなかったこと、当初、右融資金1億5,000万円のうち2,700万円は、被控訴人の関連会社であるc株式会社が控訴人Aを借主名義人として融資することにしていたものであって、控訴人会社が借主である必然性はなかったことなどの事実及び〈証拠省略〉に照らすと、証人Fの前記供述部分は信用することができず、証人E、控訴人A本人が供述するように、4月1日の融資及び4月30日の融資は、いずれも訴外会社の資金繰りのためになされたものであり、かつ、被控訴人岡山支店長であるFらが控訴人A及びEに対し、訴外会社に対する追加融資は困難であるが控訴人A、控訴人会社を借主名義人とするなら融資が実行できると提案して右各融資がなされたと認めるのが相当である。

三  以上の事実を前提にして、本件各消費貸借契約の借主及び抗弁について検討する。

1  控訴人らは、4月1日の融資及び4月30日の融資に係る各消費貸借契約の債務者は、いずれも訴外会社である旨主張する。

しかし、控訴人Aは、平成3年2月25日、被控訴人との銀行取引約定書に署名押印しており、4月1日の融資は、右銀行取引約定に基づくものであること、4月1日の融資の際、控訴人Aが額面1億5,000万円の手形を被控訴人に対し振り出し、これに基づいて、融資金が控訴人Aの口座に借入金として入金されて貸付けがなされたこと、4月30日の融資の際は、控訴人会社において、被控訴人との銀行取引約定書に記名押印し、額面1億5,000万円の手形を被控訴人に対し振り出し、これに基づいて、融資金が控訴人会社の口座に借入金として入金されて貸付けがなされたことからすれば、4月1日の融資は控訴人Aと被控訴人との間での合意に基づき、その間で融資金が交付されたものであり、また、4月30日の融資は控訴人会社と被控訴人との間での合意に基づき、その間で融資金が交付されたものであり、前者の借主は控訴人A、後者の借主は控訴人会社と認めるほかない。

2  しかしながら、前記二で認定し、説示したところによれば、4月1日の融資及び4月30日の融資は、いずれも訴外会社の資金繰りのためになされ、現実にも、融資金が右の控訴人らの口座に入金されると直ちに訴外会社の口座に振り込まれたものであり、同控訴人らは、右各融資について直接の利益を受けたわけではない。しかも、被控訴人岡山支店長であるFは、控訴人A及びEに対し、訴外会社に対する追加融資は困難であるが控訴人A、控訴人会社を借主名義人とするなら融資が実行できると提案し、その結果右各融資がなされたものである。そして、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、F、控訴人A及びEの間では、右各融資金の返済は訴外会社がすることになっていたものと認めることができ、また、被控訴人は、右各融資の返済が滞ってからもしばらくの間は、右控訴人らに対しその返済を求めた様子は窺えない。要するに、右各融資は右の控訴人らの名義貸しによるいわゆる迂回融資であり、被控訴人は、右の名義貸しに積極的に協力したものということができる。

そうすると、右各融資について、被控訴人の控訴人Aないし控訴人会社に対する貸主たる地位は、法的保護に値しないというべきであるから、民法93条ただし書の類推適用により、被控訴人は、右控訴人らに対し、右各融資金の返還を求めることは許されないと解するのが相当である。

そして、控訴人B及び控訴人Aは、それぞれ右各融資についての連帯保証人であるが、右の連帯保証債務は、借主名義人の返還債務を前提とするものであるから、被控訴人は、借主である前記控訴人らに対し右各融資金の返還を求めることが許されない以上、右の連帯保証債務の履行を求めることも許されないというべきである。

四  以上によれば、被控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 森一岳)

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